大阪地方裁判所 昭和35年(行)56号 判決 1969年2月27日
原告 中島鉄三郎 外三名
被告 国 外五名
訴訟代理人 福本久雄 外二名
主文
原告ら各自の被告国に対する本件訴えはこれを却下する。
原告ら各自のその余の被告らに対する本訴請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 <省略>
理由
第一、本案前の判断
原告ら各自の被告国に対する本件各買収処分無効確認訴訟の適法性についてみる。
原告らは本件買収の無効確認請求を被告知事と被告国を共同被告として併合提起している。そして右のうち国を被告とするものは知事を被告とするものと同様弁論の全趣旨よりみれば同一の処分を対象とする行政訴訟の一種としての行政処分無効確認訴訟であること明らかである。そして本件訴訟は、行政事件訴訟特例法(以下旧法という)施行時に提起されたものであるから、その原告適格については行政事件訴訟法(三六条)の如き制限を受けず、また被告適格についても従前の例によるとされる(行政事件訴訟法附則八条)。旧法下においては処分の無効確認訴訟については明記はなかつたが、当該処分の効力を直接訴訟の対象とするもの(準抗告訴訟)と解され、またその被告適格についても処分庁にこれを限定せず、処分庁又は行政主体のいずれをも可とする取扱いもされていたが旧法下においてもその被告適格はやはり処分庁に限るものと解すべきである。けだし、行政処分無効確認訴訟は処分庁のなした無効な行政処分の表見的公定力排除により国民の権利救済を直さいに計ろうとするものとして認められ、その性質は抗告訴訟に準ずるものとこれを解すべきであるから、右被告適格についても抗告訴訟のそれに準じ処分庁を被告とすべきものとするのが合目的だからである。従つて処分庁である知事以外の国に対する本件訴訟は被告適格を欠き不適法というべきである。
第二、本案の判断。
請求原因(一)(二)については当事者間に争いがないので、同(三)の本件買収処分に関する無効原因につき以下考える。
行政処分が違法事由(瑕疵)が存する場合でも、右違法事由は処分の取消事由となつても直ちに無効事由となるものではない。即ちその瑕疵が明白且つ重大な場合に始めて無効原因となるのであり、しかも、右瑕疵が明白であるというのは、当該処分成立の当初から、右瑕疵を構成する処庁の処分要件に対する誤認が、外形上、客観的に明白である場合をいうのである。
されば、右無効を主張するには右処分庁の誤認が存するというだけでは足らず右瑕疵が重大且つ明白であることを具体的事実に基き主張することを要する。以下右観点より本件についてこれをみる。
(一) 請求原因(三)(1) (イ)について。その主張するところは、従来の住所地に尚生活の本拠があつたことの明白性につき前記主張責任ある具体的事実を主張したものとは到底いえないから主張自体失当である。
同(ロ)について。自創法は昭和二一年一〇月二一日公布されたがその施行期日は附則一項により勅令で定めることとされ、同二一年一二月二八日勅令六二〇号により同月二九日から施行されたもので、その施行期日は公知の事実である。そして同法四八条は所論の点(三条一項の読み替え)に関する限りその原始規定以来規定されていたものであるから、その施行当時地区農地委の設けられている場合に同条の適用あるのは当然であり、原告中島の主張自体よりするも概にその施行当時地区農地委は設けられていたこととなるのでその場合法四八条の読みかえ規定が適用されるのは当然といわねばならない。同原告は同法の公布後に地区農地委が設けられた場合には同条の適用がないというがその主張自体が失当である。
同(ハ)について。所論準区域の指定、及びその承認は自由裁量でなく客観的に準区域と認められるものについては農地委においてこれが指定をなすべき義務がありこれが指定をすべきにしないことは違法といわねばならずこれに基く不在地主の認定は買収処分の瑕疵を構成すること原告主張どおりである。しかしながら、準区域の指定は市町村(又は地区)農地委の管轄区域たる行政区画が必ずもし農地経営上からみた経済地域と一致しないため、当該区域を基準とする在村、不在村の区別が自創法三条の認めた地主の農地保有上の権利の有無の判定に、看過しがたい不合理、不公平な結果を生ずるような地域的事情の存する場合にこの不合理不公平を是正緩和するために一の農地委の区域の一部をこれと農業経済的に近接な関係にある他の隣接農地委の区域とみなした上で、後の農地委において地主につき在村不在村を判定できるようにした制度であつて、個々の地主又は農地についての個別事情を考慮して行なわれる制度でないと解すべきである。そして原告が準区域の指定をすべきであるとする事由は原告の住所が本件農地の存する山田地区と道路一筋をへだてて隣接するというにあるが、このような個々の地主、個々の農地についての個別的事情はもともと右指定基準とはなりえないというべく、他に前記指定基準となるべき諸事実(農業経営面よりみて両地域を一つの単位地域とするのを相当とする事情)の具体的主張及び、その基準により指定をなすべきにこれをしなかつた違法の明白性についての具体的事実に基く主張がないので、原告主張は買収処分の無効の主張としてそれ自体失当といわねばならない。
(二)、前記(三)(2) 乃至(4) について。
原告らが右各点について主張するところは、いずれも瑕疵の明白性につき前記主張責任ある具体的事実に基く主張とは到底いえずそれ自体失当である。就中(9) の瑕疵は(2) の瑕疵とするものであるから結局(2) の瑕疵の存否が先決問題となるが(2) については前(一)項判示と同様に主張の場所に富美子が生活の本拠を存したこと、その明白性について具体的主張がないからである。
(三)、前同(5) について。本件宅地買収が自創法一五条一項二号によりなされたことは弁論の全趣旨よりこれを認めることができる。ところで同条一項の買収要件としての相当性についてみるに、昭和二四年法律二一五号による改正により同条二項が追加され不買収の場合として一乃至三号が列挙されるに至つたが、右改正後の二項各号は本件の如き右改前の買収についても右相当性のない場合の事例と解することができるから、結局のところ、右相当性は右同二項列挙の場合を消極的要件とし、その積極的要件は次のように解すできである。即ち当該宅地がもつぱら解放農地(宅地買受申請人が売渡しを受けるべき農地)のみの経営に付属し従随性を有することまでは必要でないが、右解放農地経営を含め、自作農となるべき宅地の買受申請人の農業経営上必要であり、しかも右農業経営による自作農の地位安定のためには、従前の借地権者の地位では不十分であつて賃借宅地の所有権を取得せしめることを要する場合でなければならない。従つてかかる相当性がないために法一五条一項による宅地の買収処分に瑕疵があるといいうるためには、改正後の前記一五条二項の各場合に該当する事情が存するなど前記農業経営上の必要性欠如を根拠付ける事情の存することを要し、更に右瑕疵のため宅地買収が無効となるためには右事情の存することひいてはそのために買収不相当と判断されるべきことについて前示意味における明白性を要するというべきである。
これを本件についてみるに、所論(5) の(ロ)(ハ)において主張する事実はそれ自体相当性欠如の根拠事情となりえなものであるというべきであるから主張自体失当である。
次に前同(イ)において主張する事実は、性質上前同一五条二項三号との関連で相当性欠如の根拠事情に関連することはたしかであるが未だ以つて右三号にいう相当性欠如の根拠事情として不十分という外ない。けだし、右三号はあくまで前記開放農地を主とする自作農経営のための必要性という宅地買収の相当性の欠如が宅地又は建物の位置、環境及び構造等に基因する場合を規定するのであるから、原告主張の如く該宅地が市街地あるいは住宅地域にあるとか、交通至便の地にあることというだけで、直ちに宅地買収を不適当とするものではなく、これを不適当とするためには右のような位置環境が右買収を不適当とする事情と因果的にむすびついてその不適当なことが認められる場合でなければならない。例えば、その位置環境等のために、当該宅地の農業用施設性若くは自作農経営安定のための手段性の持続自体が近い将来消滅すべきこと、などの相当性欠如を生来する事情の存することが必要であると解すべきである。従つて所論の如く該宅地が原告主張の位置環境にあるとしてもそのことだけで直ちに右相当性欠如を生来するものとはいえない。
のみならず、仮に右所論の事実から前記相当性欠如を肯定しえるのにこれを看過してなした宅地買収に瑕疵があるとしても、その明白性に関する前記具体的事実に基づく主張要件を満たしていないので到底これを無効とすることはできない。
よつて所論(5) (イ)も主張自体失当という外ない。
以上の次第で請求原因(三)で関係原告らが本件各関係買収処分の無効原因としてのべるところはいずれも理由がない。従つて、原告中島及び同木村ら四名先代富美子は本件関係各土地の所有権を本件買収処分により失つたままであるという外ない。
第三、(結論)
原告らの被告国に対する訴は第一判示のとおりであるからこれを不適法として却下すべく、また、原告らの大阪府知事に対する買収無効確認請求は第二記載のとおりいずれも理由がないから失当として棄却すべく、また原告木村ら四名の被告中村ら四名に対する請求は右買収処分の無効を前提として第三土地について依然所有権が同原告らに存することを前提とするものであるがその前提を欠くから爾余の点につき考えるまでもなくすべて失当というべきであるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)
物件目録<省略>